カテゴリー別アーカイブ: ✂︎ Episode

✂︎ Ep-150

「写真や映像が主流だっていうのにブログかぁ。相変わらずだな。ところで、タイトルは決めた?アカウント作る前に決めておいた方が良いよ。ま、狙いが何なのかわからないけど、暇つぶし程度に覗いてみるよ」

(๑•̀ㅂ•́)و タイトル決定。

✂︎ Ep-149

「そうねぇ。安藤さんなら75歳ぐらいまで大丈夫なんじゃない?美容師さんのお仕事を一から十まで知っているわけではないけど。なんとなく、そう思うわ。それにね、一人で過ごす時間が多い人ほど、一人でないことに気付く人が多いわ。これからも楽しみね」

70歳近くまでお商売をなされていたゲストと、仕事の期限についての会話。

“なんとなく”だからこそ、最終目標にしたいと思えました。

✂︎ Ep-148

「賞賛される格言とか名言とかあるよね。そういった言葉から学ぶ事も多いし、確かに為にもなるよ。元気をもらう事も多いしね。でもさ、思うんだよ。人間関係においては相手の事を想って言わない言葉も大切だよなって。あぁ..あの事を聞かないでいてくれるんだ。とか、この事に触れないでいてくれるんだ、とかさ。立派な格言よりは目立たないし、世に知れ渡る事でもないかもしれないけど、誰かの受け売りでない分、響くよね。何を言ったかじゃなかったりもするんだろうね。ところでさ、この手の話をすると安藤くんのブログに書いてもらえたりするんだよね?」

『えぇ。ただ、めちゃくちゃドヤ顔されてる事も綴りますけどね』

ドヤ顔を表現するのは面倒くさくなったので割愛しますが、賛同いたします。

✂︎ Ep-147

「表に見えるものが実は裏だったり、裏の部分が表へ変わったり。今まで明らかにならなかった事柄も露わになります。個々の差はあったとして、今年は様々な転機を迎える方達が多くなります。人間関係や職場・居住環境に至るまで、変化に富んだ年と感じるでしょう。ただね、“啐啄同時”の時期でもあります。物事には適切なタイミングがあるという話です。早すぎても、遅すぎてもならないのです」『そく..たつ? 速達?』「聞きなれない言葉ですよね。そったくの啐というのは..」そううかがったのが年始の事だった。そして「2017年は世明けの年ですよ」と、続いた。

✂︎ Ep-146

シャンプーが終わり「今日は何点?」とゲスト。いつからか頭皮の硬さチェックが恒例となった。『今日は36点』一見すると高得点でないものの、ゲストは大喜び。それもそのはず、初めてお会いした際に頭皮の硬さへ気付き、大げさに『8点』を告げた。数年が経ち、セルフケアの甲斐あって頭皮は快調です。ただ、あまりに低得点を最初の基準としてしまい、ハードル上げすぎたと申し訳なく思うのと、来年は50点超えを狙っていけるようサポートいたします。

✂︎EPの始まり

ゲストとの会話や記憶に残る出来事をエピソードとして綴れないかと考えたのが✂︎EPの始まり。仮にご本人の目に届いたとしても気付いていただけるかどうかぐらいの表現へ置き換え、文字数に制限のあるソーシャルネットワークを利用した事もあり、エピーソードは短縮して“EP”と表記していた。6年ほど前に綴り始めた当時も同様、リアルタイムに近いEPがあれば、過去の出来事だったり。エピソードの続編は“ひまつぶしにどうぞ”に欠かせないカテゴリーだった。その都度利用するネットワークコンテンツは変わりそうだけど、密かな企みはEP-〇〇〇〇の四桁だったりする。

✂︎ Ep-145

「4年後も同じ漢字だったりしてな」『確かに。ところで、振り返ってどんな一文字に?』「うーん。“響”かなぁ。で、この時期は“米”に変わるよね」『えっと。どのタイミングから飲んでるお酒の話へ変わりましたか..?』

✂︎ Ep-144

「これだけ寒くなると暖かいコーヒーが美味しいですね」チョコレートの包み紙を丁寧に剥がし、ゲストは言った。頭の上で回るローラーが暖かくて心地が良いとも。近況をうかがい、次の段取りの為に席を離れた。しばらくして薬剤の浸透を促すためのローラーが止まる音。「ごちそうさまでした」パーマのかかり具合をチェックし、よく見ると飲み切ったコーヒーカップの横には小さく折られた鶴。日々子供たちへ接するご職業柄ゆえの立派な仕上がり。いやはや、お見事です。

✂︎ Ep-143

「いよいよ、大改造ですね」期待半分、不安も半分。そんな表情を感じながら、改めて最終のカウンセリングを行う。お仕事場での髪への規制が無い期間にしてみたかったというヘアースタイルへの挑戦。半年ほど伸ばされた髪へパーマ液を塗布すると「あぁ、なんかこんな感じの雰囲気だったね。パーマって」と、やや声が弾んでいるようにも聞こえた。互いにコーヒーを啜り終わるとロッドを一本づつ外し「どうなってる?どうなってる?」とゲスト。半年前から計画を立てた“大改造”は無事に終了。鏡の前で「半年間、頑張って良かった!」の表情は毛先のカールにとてもマッチしていました。

✂︎ Ep-142

背中まである髪を31cm切ってくださいとのご要望。以前からそういった活動こそ存在したが、“ヘアドネーション”の呼び名はまだまだ浸透していない頃の話。パーマやカラーなどの施術がなく、過度な毛量調整がなされていないことが望ましともなれば該当者は多くはない。それでも「誰かのためになるなら、自分の髪も使って欲しい」と話すゲストは潔く、表情は清々しく映った。髪の長さを測り終えるとお互いが確認をし合うように息を飲んだ。仕上がりは男性顔負けのショートスタイルで、とても似合っていた事を覚えている。あれから5年ほどが経った。順調に伸びた髪は二度目のヘアドネーションを迎えようとしている。

✂︎ Ep-141

「形に残ろうが、残るまいが、要するに作り続けられるかってとこだよね。大事なのは。大抵の事柄は途中で飽きてしまったり、自分には向いてないと匙を投げたりするよね。自分もそうだった。いつだったか“創人は口を噤め”的なことを言われたんだよ。最初はカチンときたよ。その後も歯向かうようにベラベラ喋ってたし。でさ、何年か経ってみるとその時に言われた事の意味合いがわかってきてね。それからというもの、ひたすら手だけを動かしたよ。物体は口から生まれないからね」そう話すゲストの手は繊細でとても大きく見えた。

✂︎ Ep-140

夜勤明けだというゲスト。日が昇ってからの終業にて、その足でご来店くださった。カットの最中に医療現場でのお話や見解についてうかがうと、その内容からも緊張感が漂う。しばらくするとゲストの口が止まる。そのまま見ないふりをし、できるだけ音を立てずにカットを済ませた。見送りの際にエレベーターへ案内し、一礼をするとゲストから「お大事に」のお声掛け。きっと、咄嗟に出てしまった夜勤明けの名残だろうか。一瞬その言葉に戸惑ったが、ゲストも同様だったらしい。互いに目を丸くした後に口元を緩めながらの一礼。

✂︎ Ep-139

「本当は大阪マラソン当日にカットの予約を予定してて。でも、当日になってどうなるかわからなくて」“うんうん”と頷き、当日に敷かれる交通規制の話だと察しをつけた。ところが、トレーニング無しのぶっつけ本番でフルマラソンへ挑んだという流れ。しかも、30kmまで力走されたというから更に驚いた。「“月化粧”まであと少しだった。それに、その日のゴールは髪を切ってもらう事だった」と。少し残念そうにされるも、次こそは35km地点でランナー達が貰えるという大阪名物を狙いますよと笑っていらした。もしも出走が叶うなら。来年は店内入口へゴールテープを貼り、応援旗とスポーツ飲料の用意をしておきます。

✂︎ Ep-138

カットの途中で何となく背中への視線を感じ、鏡越しに後方へ目をやると入り口に小さな姿が写っている。振り返ると担当しているゲストのお子さん。辺りに親御さんの姿はなく一人でポツンと立っていた。施術中のゲストへ断りを入れ「〜ちゃん、どうした?」と、その子の元へ。少しだけ神妙な面持ちで手の中に収まるハイチュウ。親御さん曰く「あの日はね、近くへ買い物に来てて。そしたら娘がおやつの差し入れするって言い出して。お仕事の邪魔にならないように渡せたら直ぐに戻ってくるよう伝えておいたのだけど。突然驚かせたね。」あの時の表情に合点がつく。自分が気付くまで声を掛けないで待っていてくれていた事を改めて知った。

小さな手から受け取った忘れられないエピソード。

✂︎ Ep-137

『今回はどんな小説ですか?』毎回読んでる本の話を聞くのが楽しみだった。「今回のも面白くてね。片時も目が離せない長編ミステリー。この作家さんは実際にありそうな想定の中に少しだけ非現実的な描写をサラっと入れるセンスが見もので…」自分の知らない世界をとてもわかりやすく、そしてその作品の魅力についても。実際に何冊かお借りした事が切っ掛けで本を読む楽しさを教わった。大きなチャンスに恵まれたゲストは「ひと頑張りしてきます!」と言い残し立った。教わった作家の新刊が出る度にその時の笑顔を思い出し、今回の作品についてはどんなコメントをされるのだろうと馳せてしまう。

✂︎ Ep-136

カラーリングの塗布が終わる頃に窓の外ではパラパラと雨音。「今日降るって言ってたっけ?」首を傾げたままのゲストと顔を見合わせた。その途端に新調したばかりのタオルを洗い、屋上で干していたことを思い出す。『きっと全滅ですね』そうボヤくと「日頃の行いが悪いんじゃない?」と半笑いのゲスト。二人分のコーヒーを淹れ、啜り始めた矢先に「あっ!!私も洗車したばっかりだった!!安藤さんのこと笑ってる場合じゃないわ」と。間髪入れずに『日頃の行いが…』互いの笑い声と雨の音。

✂︎ Ep-135

遠方からお子さんを含めた5名のご家族ゲスト。お二人乃至、三人目のカットが済む頃には昼時で「安藤さんもお昼食べるでしょ?買ってくるね」と。恐縮と言うか何と言うか。その反面、遠慮なくバクバク食べてしまったりで、誰よりも早く完食。「安藤さんって、ご飯飲み込んでるの?」と驚いたような表情の子供ちゃん。日が沈みかけ、最後のお母さんカットが仕上がる頃にはソファーから寝息のハーモニー。

✂︎ Ep-134

入社式へ向け、首筋が出るぐらい刈り込んだショートボブのオーダー。初めてお会いした際は少しだけ肩に力が入っているようにも。髪は少しづつ伸び、ヘアースタイルや施術中に交わす話が変わって。気がつくと干支が一巡りする頃合い。ロングスタイルが定番となりつつも、首筋が出るぐらい刈り込んだショートボブへ、心機一転。肩に入った力はいつしか背筋と目元へ場所を変えていましたね。

✂︎ Ep-133

挨拶と自己紹介を済ませ、ゲストを席に案内すると第一声が「懐かしいブラシがある」だった。クッションブラシの名を持つ髪と頭皮を梳かすためのブラシ。ブラシは頻繁に購入するものではなく“親から子へ”を謳っているメーカーも多く存在する。最もポピュラーな形状のブラシで、今よりもずっとブラッシングが当たり前の頃は…なんて説明を加えると「そうそう、私も母に梳かしてもらってた。その後にベビーパウダーをつけてもらって、べっぴんさんになりますようにって顔をたくさん触ってもらった記憶がある」そう仰った後に1歳になる娘へも同じようにブラッシングをしてあげますと続く。まさしく“親から子へ”を感じる瞬間だった。

✂︎ Ep-132

「入場前に点線部分をモミモミしておけばチケットを手渡される係がちぎりやすくなるでしょ。列をなす中でも最善があるのだと。いつだったかそんなことを習ったことがありました」過去にそんな体験談を話してくださったゲスト。そんなゲストが主宰する恒例のイベントがあり、今回は初めてフライヤーなるものを製作されたのだとか。イベントの期日を過ぎ、処分するのが忍びないなと思った矢先の“フライヤー回収作業”と題したお礼回り。速やかな振る舞いとご配慮に感銘を受けたこんなん惚れてまうわ♡エピソード。

✂︎ Ep-131

背中まで伸ばした髪を切ってしまいたいと思い立ったゲスト。これまでも何度かスタイルチェンジを試みるべきかと迷ってこられた姿を知っている。その度に携帯電話のモニターへ映るロングヘアーのモデルを眺めては強く口を結び直す。女性がバッサリと髪を切りたいと思う回数は年間二度ほどとも言われている。その機会を逃せば当面大きなスタイルチェンジはやってこない。季節の移り変わりだったり、心境の大きな変化だったりで通算二回。『一気にいきますよ』そう伝えるとゲストは無言のまま深く頷き、少しだけ口角を上げた。クロスをつたい、床に落ちる髪の束。目をつぶったままのゲスト。ハサミの開閉音。そっと口を開くゲスト「頭もだけど、なんだか気持ちも軽くなってきた」少しだけ声がかすれている。ひと呼吸置き、声を掛ける代わりに大きくハサミを入れ直した。

✂︎ Ep-130

サイドはバリカン仕上げ、持ち前のカールを活かしたツーブロックが定番スタイル。かれこれ何年になっただろうか。アパレル関連のお仕事に携わるゲストはビックシルエットの洋服もスマートに着こなし、発色の鮮やかな小物もトレードマーク。度々そのセンスを盗まさせてもらっているが、今回ばかりは逆だった。「安藤さんみたいにボウズにしようと思って」『??』美容師にあるまじきニット帽を被っての仕事。ボウズにしたことも告げていない。となると…「ブログで読みましたよ、ボウズにしたって。自分もしようかなと思って。」カットチェアーに座るボウズ姿のゲスト。バリカンを片手に赤面するボウズ美容師。

✂︎ Ep-129

ロマンスグレーという表現がぴったりな白髪の女性。近頃、背中が痛むと仰る割には背筋が通っていて姿勢も正されている。パーマの最中にうかがうお話は魅力的でついつい聞き入ってしまい、用意したお茶が冷めてしまう事もしばしば。その都度「ちょうど飲みやすくなったわね」と笑っていらっしゃる。黒髪が混ざっていらした頃には「世間ではごま塩の髪って言うけど、まるで“ふりかけ”ね。真っ白になる時も来るのかしら」と少しだけ不安そうな表情にも感じられたが、昔からお商売をなされていたからか計算が得意だそうで、電卓より速く釣り銭を導く姿と商いの秘訣に圧巻させられてしまう。

✂︎ Ep-128

「ごめん!またやっちゃった!!」額に手を添えたまま少しだけ右側を切りすぎた事の説明が加わる。過去に何度か前髪セルフカットのコツを伝授した。鏡を見ながらハサミを動かすと自分の手でないように思えてしまうと困った表情。それを見て思わず口元が緩み『もう一度だけコツを教えましょうか?』と、念を押してみる。「う〜ん。また失敗するだろうし、もうコリゴリかなぁ。でもね、自分で前髪を切る時のコツはちゃんと覚えてるよ」その後に続く説明は何度も復習を重ねた事が伝わるほど正確な手順だった。確かに切りすぎた右側の前髪はアレだったけど、合格点まであと少しでしたね。

✂︎ Ep-127

カットが始まると身体がゆっくりと横に傾く男性。余程お疲れなのか目を覚ます気配がない。ゲストの髪に触れていると言葉にならない感情を覚えることがあって、身を委ねてもらえる喜びからくるものかもしれない。最後まで起こすことが無いよう鋏を入れ、仕上げに取り掛かる。男性の肩を二度叩き、終わりの知らせをする。「あぁ、もう終わったのか。なんかさ、安藤さんに髪を切られてる夢を見ていたよ」とゲスト。『じゃあ、カット料金は2回分お願いしますね』と伝えると、大きく伸びを済ませ「さぁ、仕事、仕事!」とスイッチオン。どんなお仕事をなさっているのか、どんな生活を送られているのか。察しはつかないのだけれども、それはそれで良い事だと思う。

✂︎ Ep-126

『飲み物どうしよう?』の質問に「コーヒーにします」との返答。確か「コーヒーは苦くて飲めない..」だったはずと豆を挽きながら記憶を辿る。押し付けるような形でブラックコーヒーにチョコを添えて振る舞う機会は多いが、念のためにミルクと砂糖の確認を加えた。杞憂にも「おすすめで」と。『当店お薦めのブラックです』カップを置いた後に無理をさせていないか様子をうかがうも、来年成人式を迎える彼女なりのペースで平らげてくれた。それを見て嬉しい気持ちと少しだけ時の経過を感じた。

✂︎ EP-125

新着メールが手元に届き、差出人を確認すると初めて拝見するお名前。ご丁寧な挨拶から始まり、髪の現状やご希望が添えられている。ご予約をいただいた際は真っ先に深呼吸を行う癖がある。これは電話予約が主流だった頃からの決め事で、“気持ちを落ち着かせる前に電話へ出るな”という教訓が元となっている。誤字脱字はないか、日時は正しく打ち込めたか等、何度も読み直して送信ボタンへ指を掛ける。無機質な電子音と共に“送信しました”の文字。それを見届けると、改めて深呼吸を行う。今度は自分の心拍数を整える為に。

✂︎ Ep-124

『随分と焼けましたね』「そう言う安藤さんも。お休み中は帰省されたんですか?」月を跨ぎ、互いの日焼け具合を確かめた後は旅行先でのお話や自身の帰省について。まるで夏休み明けの校内で繰り広げられる会話のよう。紫外線をたっぷり浴びた髪を梳かし、次の季節へ向けたヘアースタイルの話へ移る。「あ、そうだ。前に話をしていたパーマはまだ早いかな?」秋口に向けたリッジの効いたヘアスタイルの事だった。「夏ももうすぐ終わちゃうし、今年も残り4ヶ月かぁ…」『早いですね。夏のやり残しはないですか?』「大丈夫。宿題や課題は最初にやりきるタイプだから。安藤さんと違って」『最後の一言、要ります?』そんなやり取りを交わし、パーマの準備へ取り掛かった。何気に外へ目をやると日の暮れが一段と早くなったようにも感じた。

✂︎ Ep-123

両手に大きな荷物と「ただいま」の一声。変わりのない表情を見て『おかえりなさい』と返す。今年は早めの帰省らしい。滞在中の過ごし方から半年分のあれやこれ。言葉のイントネーションが変わる度に少しだけ照れ笑いをなさるが、長期に渡る転勤なのだから致し方ない。ヘアースタイルが整い「ようやく帰って来た実感が湧いてきたよ。じゃあ、またね」と、大きな荷物を抱えながらも最後まで手を振ってくださる。半年後の“その日”を待ちながら同じように手を振った。

✂︎ Ep-122

片手に雑誌を抱え入店なさるゲスト。「今回、愛車が掲載されました」そう話す男性は自分にとってのバイク先生。自身が股がる同型のバイクから日本で数台しか納車のないバイクまで。好きな事を長年に渡って貫くスタイルとそれに対する知識に脱帽し、度々自分の知り得ない情報を提供してくださっている。何年か前に“正月の日の出を一緒に見に行こう”と約束をした。いただいたバイクの専門誌を捲りゲストの愛車が目に止まる。朝日に向かって並走する姿を想像すると楽しみでならない。

✂︎ Ep-121

街を歩いていてふと目線が止まった。そこには曽て担当していたゲストの姿。何年振りだろうか。髪のコンディションが相変わらず良好で、手入れも行き届いている様子。その方にとっての節目まで担当できたことに改めて嬉しくもなった。出会いがあれば、その逆も然り。仮に髪の手入れができていなかったり、浮かない表情だったとしたら。意を決して声を掛けたくなっただろうか。いやいや、そんなことは許されない。そっと振り返り、毛先まで整った髪を見送った。

✂︎ Ep-120

『ご要望は?』「アンニュイな感じで」『出たっ!』そんなやりとりから始まった。ヘアモデルの写真や画像を視認しながらのカウンセリングというケースもあれば、抽象的なイメージだけのやりとりも少なくない。その場合、量産的なヘアースタイルでないからこそ言葉の端々から何を感じ取れるかが肝となる。普段から朗らかで明るい印象がある同様のゲストから「錆びれた雰囲気のカラー」「根暗な感じ」などネガティブな要素を含むフレーズが飛び出した時は真意が分からず、それとなくうかがうと「ヘアースタイルでどれぐらい遊べるのかと思って」と。合点がつき、その遊びに大いに乗っかろうとハサミの持ち方や切り口を変えた。きっと、ヘアースタイルってゲストと共に作っていくものだと思う。

✂︎ Ep-119

全く日本語の通じないご家族でのゲスト。“チョキチョキ”と指をハサミに見立てたサインのご主人。戸惑いながらもカットチェアーへと案内。母国語ではなく、ゆったりとした英語で声をかけられたが、全く理解できない。不甲斐ないなりに『カッコよく仕上げたら良いのだろ?』をタブレットで翻訳し、すかさずそれを見せて歯を溢す。こういう時はハッタリしかない。そんな気分だった。親指を立て「任せるよ」みたいな事を言われた気がした。今までにないぐらいの発汗と聞きなれない言語が飛び交う中、ハサミを進める。これが『ジャパニーズカッコ良いスタイルだ』と言わんばかりに鏡を見せると。一段と親指を立てgood!のサイン。見送りの際に交わした握手は、自らの手をすっぽりと包み込むほど大きな手だった。

✂︎ Ep-118

「やっぱり今日も盗みきれなかったかぁ」少し残念そうな表情と“次回こそは”という意気込みを感じる視線で鏡の中を覗き込む女性。ベースカットと呼ばれる謂わばヘアースタイルの骨組みについて説明をしてからというもの、毎回のように「技術を盗んで帰る」と。お仕事柄なのか平面に仕上げた構図を3Dへ転換することに慣れているとのことで、カット理論に基づいたヘアースタイルの展開図を楽しそうに眺めていた事もあった。とても筋が良く“いつか本当に技術を盗まれてしまうのではないか”なんて思いながらも、秘技と奥の手があることは内緒にしている。

✂︎ Ep-117

「ねえ、安藤さん。アイスランドの首都って知ってる?」『なんですか、唐突に』「いや昔ね、地理の授業で“レイキャビーク”って言葉にやたらと惹かれて。不思議なんだけどさ、過去の事柄って何処かに繋がってたりするのかな」お酒の輸入に関わるお仕事をなされているからこその説得力があった。アイスランドという土地や歴史。モルトウイスキーの事、他のお酒についても丁寧に指南してくださった。『じゃあ、逆にスリランカの首都ってわかります?世界で一番長い首都名です』「それ何で覚えたの?」『え?赤点とった時に担任がそれを覚えたら見逃してやるって』「そりゃ、必須で覚えるね」赤点を免れるために必死だった頃はその用途以外に出番なんてないと思っていた“スリジャヤワルダナプラコッテ”が年月を掛け繋がった話とゲストとレイキャビークのエピソード。

✂︎ Ep-116

「人間が出すものって、基本的に汚いわけよ。汗や涙だって立派な排出物なわけでしょ。だからさ、言葉ぐらいは正そうとしたわけよ。ところがだ、その言葉が綺麗になればなるほど逆に相手に届かなくなる。そんな感覚を覚えたよ。結局どう思われるかを優先したのかもな。選ばなくても、選びすぎてもダメだった。かと言って自分に嘘をつきたくない。実際はそんな簡単な話じゃないけどさ、汚くたってパンチを効かしてるやつの方がカッコ良いわけよ。男ならそれぐらいじゃなきゃな」

✂︎ Ep-115

「あら…。もう、寝てる」そんな母親の声に少しだけ目を開け、再びコクリコクリ。「上の子は小さい時からカットが終わる間際に寝てたでしょ。姉妹揃って同じとはね」確かに、お姉ちゃんはカットの終盤にコクリコクリ。妹ちゃんは最初から。「毎回ね、カットの時は安藤君の手から眠くなる何かが出ているのかって思わされてきた」『手ではなくって、カットチェアーからだったりして』「コワい美容室だこと!!」そんな会話も尻目に、コクリ…コクリ…。

✂︎ Ep-114

黙々とハサミを振るい、髪を挟む指の感覚が澄んでいく。ゲストは目を閉じ、会話はない。辺りが静まり返る。変わることのないその距離に心地良さを感じ、淡々と髪に触れる。ハサミのピッチが上がる。いつかは変わってしまうかもしれない時間。ただただ今はその時間に浸りたい。ハサミを置き、仕上がりと同時に互いの目線が交差する。

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美術の教師に憧れ、現実は理想とかけ離れている事を知り諦めた。色気付き始めた中学時分に出会った一人の美容師が次の憧れの対象となる。床屋通いだった頃からの緊張は引き継がれているものの、“理”と“美”でこれほど空間と提供される技術が変わるのだと興味深々だった。田舎の割に美容室はそれなりに点在し、当時一番おしゃれだと思った友人の通う美容室へ。担当者を指名できたような気もするし、そうでなかったかもしれない。とにかく、店の都合と方針に委ねた。単純に毎回担当者が変わらなかったのは運が良かったのかもしれない。本当は『この美容師さんがイイ』を伝え、少しでも指名数の貢献をしたかった。と、今は思う。高校に入学し、美容室でのバイトに恵まれるまでの期間“この美容師さん”にお世話になった。結局、ちゃんとしたお礼も伝えられず今に至る。顔馴染みぐらいになった際は自分の為に練習を重ねた技術があり、それを駆使してカットをさせて欲しいとの提案。もちろんセールストークだったかもしれない。だけど、その時に感じた嬉しさと特別感・心地良さは未だに思い返すことができる。

✂︎ Ep-113

『お帰りまでに雨が止むと良いですね。雨は嫌ですね。』
「そう?雨の音を聞きながら髪を触ってもらうのも悪くないもの」『なら、良かった』「私の髪の毛ってクセが少しあるでしょ?雨が降った時の方がパーマみたいになって好きだったりするし、そうなるようにカットしてくれてるって前に言ってたでしょ」『そうです。髪のクセを活かせるようなカットラインに仕上げてて、まずは濡れた状態で髪の毛の…』「ねぇ、そう言えばさ。安藤さんがやってるブログの中で、なんだっけ、お薬の話が長い?かなにかを指摘されるってやつ。アレが個人的に一番ウケた。他の人もやっぱりそう思ってるんだなって。ってか、ブログそのものも長いよね」

『…そ、そっすね。』

✂︎ Ep-112

カラーリングに使用する薬剤を調合し始めるとゲストからの熱い目線。『今回のカラーリングは一味違いますよ』そう伝えたからこそかと勘ぐった。ところが、目線は薬剤を混ぜ合わせる手先から少し離れた所に。「これだ!!」と明らかに合点のついた一声。”何が?“の表情でいると「勤めてる幼稚園で空箱を使った工作の時間があって、長細い箱がなかなか見つからないままで。もし捨ててしまうなら譲ってもらえたりしますか?」そういえば、牛乳パックや発泡スチロールで船やロボットの製作したな、なんて思い返しながらできるだけカラー剤の空箱をかき集める。「男の子達は箱を繋げて“剣“とかかなぁ」とゲスト。果たしてどんな作品へと生まれ変わるのか。

追記 : 後日ゲストから写真付きのメールが。男の子って小さい頃から強くなる事を夢見ているものですよね。カラー剤の空き箱がスパイスの効いた作品へと生まれ変わりました。

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(5月25日 記)

✂︎ Ep-111

「髪の毛の量をとってくれる時、最後にハサミをカチカチって二回鳴らすでしょ?それは何か意味があったりするの?」乾いた髪の量調整中にゲストからそう問われ、何を指しているのかすぐにわからなかった。自分の技術に不適切な施術があったのではないかと背筋が伸びる。改めて注意深くハサミの開閉音に意識を向ける。…カチ カチ。確かにその音がした。それと同時にゲストが笑う。自分も吊られて笑う。「ほら、言ってるでしょ」『確かに言わせてますね』髪を摘まみ束にし、その裏側にあたる部分の量を少しずつ減らす過程での癖と判明。自分でも気がついていなかった事を告げると『安藤さんさ、マッサージが終わった後も肩を二回叩く時あるよ』と。恥ずかしさ倍増。

✂︎ Ep-110

『琉球ガラスの職人になりたくて』そう話す彼女に過去の自分自身を投影したのか、ご家族が来店なさる度に「こっちに帰って来られましたか?」と。ご家族へも余程の事がなければ連絡が無いのだとか。“連絡が無いのは元気な証拠”とご家族。寂しさのあまり最初のGWには帰省をしていた自分が彼女に対して“同じ境遇”とはまったくどの口が言えたものか。この一年の間に彼女の顔を見ることはなく、作品と一緒に帰省された際は表情の変化に驚いてしまった。『お土産です』と彼女自身が作ってくれた“ぐい呑”もno217オリジナルグラスも絶賛活躍中。

✂︎ Ep-109

「医療界に“仏神鬼手”という言葉があってね。鬼手仏神とも言うね。ほら、手術の時ってさ、まるで鬼の如く患者の身体にメスを入れるでしょ。でも、それは患者を助けたい一心なわけで、慈悲深い気持ちの表れであるという話。いやぁ、身に染みるよね。この前もさ、鬼の手というより、まさしく赤鬼のような形相で部下を叱ってしまったわけ。で、僕は仏の心を持ち合わせてないから、“仏役”に代わりのフォローをお願いしてるんだよ。上手いからな、人を労うのも。きっと、役割ってあるんだよな。ところでさ、鬼のパンツは何年持つんだっけ?」鬼のパンツが5年だったか10年だったか、それはどちらでも良いですかねって話と。『泣いた赤鬼』という話に登場する鬼は“赤鬼も青鬼も良い鬼”でしたよねという話と。仏神鬼手の話。

✂︎ Ep-108

「うわぁ…また更新されてる…。いつになったら飽きるかって、それだけが楽しみでついついブログ覗いてしまいますよ」半分は戯けて茶化すように。そして、もう半分はまるでエールかのように。確か、一周年セレモニーの案内をしようと『ゲストも巻き込めるだけ巻き込んじゃいたいんです』って、伝えるや否や「…いやぁ。良い方向へ進むイメージが全く沸かないですよね」って、笑われてましたね。顔に“頑張れ”の文字を吊り下げながら。

そう。誰かの為に綴るわけでなく。誰かの為に綴らないわけでなく。私は私が綴りたいことを思うままに綴れば良いのだと。“今回もまんまと背中を押してもらいました”と称えるのはしゃくだから…ここだけの話ということで。

✂︎ Ep-107

変わりゆく時代のなか、80歳までカメラ屋の門構えを貫かれた店主の話。細やかな気配りはご家族だけでなく、幅広い客層からも賛美の声が届いていたのだとか。いつの日か、写真の現像を必要とされなくなると予測したご主人。デジタルカメラへの移行と、それに対する決断も潔かった。とは言え、アナログからデジタルへの変換を先駆けた話はない。デジタルカメラそのものがとても高価だった事と、それ以上に長年アナログカメラに囲まれた暮らしを思い返せば、断腸の思いだったかもしれない。ところが、70歳を過ぎたご主人の先見の目に狂いはなかった。新しい物好きな客層からデジタルカメラのレンタルが殺到。瞬く間に「たくさんの依頼がきたよ!間違ってなかったんだ」と、ご家族へ嬉しそうに報告されたのだとか。「時に迷い、時に大きな決断もやってくる事でしょう。でもね、好きなことをやり遂げようとする眼差しっていうのは、歳を重ねたうえでより輝くものですよ」ゲストの女性は彼方を見つめ、そんな話をなさってくださった。

✂︎ Ep-106

『髪の毛、治るかな…』毛先をクルクル摘みながらも少し不安げな表情。「大丈夫。髪に必要とされる成分を小さな粒子の順番で……………聞く気が全くないでしょう…」『うん。だって安藤さんの話は長いもんね』仰る通り。できるだけ専門的な用語は使わないように心掛けていても、“この成分がね”とか“あの成分はね”とか知らず知らずにスイッチON。だけど、仕上がった時に『これすごいね。さらさらになってる!』と髪に何度も触れる姿を窺うと、“カチオン化18-MEA”とか“ラメラ構造”の話とか。そういう難しい話はまた今度で良いかと思えてしまう。

✂︎ Ep-105

トイレに入っていたんです。ヨーグルト食べ過ぎたのか、お腹の調子が整わなくて。そしたらエレベーターが開く音とキャリーバック転がすような音聞こえてきて。ゲストの来店予定とは時間帯が噛み合わないし“おかしいな?”と思いながらも咄嗟に表へ出たら「ワックスを買いに来たよ、元気にしてた?」と。転勤なされてからも年に一度ぐらいですかね?私の顔と当店自慢の大きな大きな鏡の様子を気にしてくださる男性。そう、大きな鏡の元ご主人と慌ててトイレから飛び出してしまった私のエピソード。

✂︎ Ep-104

1日の業務が終わり、片付けに入りかけた。すると電話が鳴る。馴染みなれた声。普段とは異なる時間帯でのご予約。都合が付きにくかったことも安易に察しがついた。思いのほか早く到着されたゲストはすらっと伸びる背中が“く”の字になり『待たせましたね』と息が上がっている。「少し休んでからにしましょうか?」の声掛けに『大丈夫。走ってきたことを装っているだけだよ』の振る舞い。すぐに見破ることができたのだけど、せっかくのご厚意にシャンプーを始める。すぐさま『ごめん、やっぱ休憩させて』と。静まりかえるビル内に二人の笑い声が谺した。

✂︎ Ep-103

『もう仕事辞めようかな…。私には向いてないもん』そう口にされると「そうですね」とも「そんなことありませんよ」ともとれるような曖昧な言葉を用意し「今回は何があったんですか?」と続ける。一通り話をうかがうも、私にはあなたに似合う仕事が何かを知る術が見当たらない。でもね、髪を大きくかき分けた後に颯爽と職場へ向かおうとする姿は戦士顔負けの勇ましさ。“向いている向いていない”の話は不毛だとさえ感じます。

✂︎ Ep-102

「ここで最後か…」カットが終わろうとしている時にそう呟かれた。覚悟はしていたものの、実際に転勤という言葉を耳にして今までの時間が思い返される。お見送りの際「忘れ物はありませんか?」の声掛けにニヤリと歯を見せ「またいつか…」という声。エレベーターが閉じた後もその声が耳に残る。

✂︎ Ep-101

卒業式シーズン。学生や親御さんといった顔ぶれが続く。少し前に幼稚園を卒業されたと記憶していたはずが、次は中学への進学を控えられていたり。はたまた、“大学受験の勉強中に遊びに出掛けて怒られたんだ…”と照れくさそうに話をしてくれた男性が「そんな事もありましたね。春から社会人になります」と、大人びた口調へと成長されていたり。一年でその早さを最も感じる季節かもしれない。

新しい生活を前にそれぞれの想いがうかがえる。髪を整え、伸びた背筋に意気込みと逞しさも感じられた。