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人気のアトラクションであったり、お気に入りのスイーツ。はたまた入手困難なデバイスなど。世の中には並んででも手に入れたい物ってあったりします。興味がなければ10分でも並ぶのは長いと感じてしまうのに。ネットや通販では購入できず、現地へ足を運ばなければならない。ともなれば、どんな状況下であれ頑張れてしまうものかもしれません。そう、今日の「ひまつぶ」は中学時分から憧れだったアイテムをゲットするため一人東京へ向かった自身と、そこで出会った人々との話です。はじまりはじまり。

未だにパスポートを持ったこともなく、海外旅行は経験ゼロ。東京観光については以前に勤めていたサロンでの研修と題した慰安旅行。その時だって、東京という街に慣れたスタッフの後をちょこまかと付いて歩いたぐらい。そんなこんなな男が一人で東京へ行こうと決意し、夜行バスのチケットを入手。仕事とのスケジュールというよりも、朝の7時に現地へ着いておくことが目標。そうなると夜行バスが一番都合良かったという背景。

青山表参道に所するgoro’s(ゴローズ)こと高橋吾郎さんの作ったアクセサリーに出会ったのは中学生の頃。色気付き始める頃だからか勉強なんてそっちのけで、ファッションやそれに纏わるカルチャーに興味深々。少しでもカッコ良いと思うものには触れてみたい。そんな気持ちが芽生え始めた頃。そんな中で一際気になったのが当時のファッション誌に登場した金子賢さんの私物。それはそれは見事なまでにご本人にマッチしていて、とにかくカッコ良い。渋く燻されたアイテムは長年愛用されているからこそなのかと。そんなアイテムをいつかは自分も…とは思わなかったんです。実は。なんと表現するべきか。とにかく、『欲しい』ではなく別の次元に存在するアイテムだと思っていた気がする。

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原宿へ到着したのが朝6時半頃。金曜日の平日ということもあって人通りは少なく、その時は少しだけ安堵。話によると、並んでも店へ入ることすらできない人達もいるらしい。それぐらい並ぶと。それに加え、一人が購入できるアイテムにも限りがあったりする。ONE DAY, ONE FEATHER。もちろん、在庫がなくなった時点で購入には至らない。現地へ早く着いたこともあり、原宿の街並みを闊歩する。後に起こる出来事など知る由もなく。

“今時だな”っと思ったのが、スマートフォンのボタンを押して並ぶ順番を決めるというルール。7時ジャストに明暗を分けるクジ引きが始まる。因みに、当時は“7時ルール”があったが、現在は並び方そのものに変更があったらしい。時間になると何処からともなく集まった100人ほどのファンがクジ引きに参加。自身の引いたクジはというと、明らかに最後から数えたほうが早い数字。実際に並んでみると神宮前交差点の辺りで先頭なんて見えもしない。ほとんど眠ることができなかった夜行バスでの疲れとこの先を示唆するような天候。すでに靴には雨が染み込んでいた。ゴローズのオープンは13:00。ん??おかしいと思いましたよね?そうなんです。クジ引きが7時。オープンまでの6時間はどうするのか。待つんです。ひたすら。東京の右も左がわからなくたって。天気が大雨だったって。欲しいものが手に入る保証など、どこにもなくたって。ただただ、並ぶんです。

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「隣に並んでも大丈夫ですか?」そう声を掛けられたのは並び始めて小一時間が経った頃。『後ろの人達、みんな帰ってしまった様で。だから多分大丈夫だと思います』そんなやり取りを交わし、お互いゴローズへ並ぶのが初めてだった事。なんとなく言葉のニュアンスが近くてうかがうと、同じく大阪からやってきたという事。時間内にちゃんとお店に入れますかね?とか、どれが欲しいんですか?とかとか。意気投合というより、これからの時間を頑張って乗り越えましょうね的な雰囲気。気がつくと、自分一人で並んでいたのが前後に同じ有志を抱くメンバーに変わっていた。長時間に渡るわけで、トイレ休憩や軽い食事の際には前後に承諾を得て席を離れるというルールがあって、わざわざテキストへ起こすまでもなく当たり前のことなのだけど、自分の席も確保してくれたお礼に缶コーヒーやらを持って帰ると一段と会話が弾んだり。雨脚は最強で靴もズボンもビショビショ。でも、最後まで頑張ろう。今回は目当てのものが手に入らなくとも足を運んでみて良かった。そう思えたぐらい。

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ここで、少し話を変えます。実は、この時に隣に並んでいた彼。今ではno217のゲスト。今日の“ひまつぶしにどうぞ”は彼からの依頼で過去に入手したゴローズのブレスレットの修理依頼を受けた話も並行させます。

元はと言えば、サドルレザーを使った革小物を製作していた高橋吾郎さん。そんなゴローさんに憧憬抱き、自身も革と銀細工に興味を持つことに。彼の持ってきたアイテムは羽のモチーフが二つ付いたブレスレット。修理の専門店でも修復は難しいと言われてきたそう。極めて高いハードルを越えることができるのか。実際に自らも手に取り、修復内容を確認すると専門店がNGを出す理由は明確なところに。あまりにも繊細な羽の表情が溶接の際の熱で変形を伴ってしまう。そうなると、原型を残せなくなってしまう。その事を彼に伝えると、覚悟の上で持ってきたと。『だったら、断る理由などないですね』みたいな事を言い、早速準備に取り掛かる。本心は『やべー。マジ難しいヤツやん。ここまで来ると、引っ込みつかんくなってもうた』だった。

写真 (1)

先ずは、何かに引っ掛けてちぎれ落ちてしまった羽の調整。“金”という素材ほどでないもの、銀もそれなりに引っ張られることで切断面が餅のように少しだけ伸びでしまう。その時点で切断面が元通りにならず、研磨を施しできるだけ元の形に。ブレスレットと羽の裏側を溶接しやすいように接地面に使用されただろう銀ロウを剥ぎ取る。ここまでで、小一時間。最初こそ手の震えがあったが、自分のペースを掴めてきていた。

溶接に使用する銀ロウとは、銀の素材よりも柔らかく融点の低いものを指す。大体銀の融点が960℃ぐらい。本来はバーナーやその他の工具もそれなりのものを必要とする。自身に関しては自分が使って慣れたものがベストだと思い込んでいるものの、この時だけはプロ用のバーナーが欲しかったぐらい。何度チャレンジしてもフェザーがくっついてくれない…。熱を加えすぎて原型を崩せないからこその引き腰。「ギリギリのところを攻める」みたいな、峠へ走り込みに行く走り屋ドライバーのような気持ち。本当に難しかった。

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一部始終、とはいかない写真での説明。それぐらいに余裕がなかったわけで。なんとか溶接が済み、研磨の工程へ。使用感を残しておくか否かで仕上げ方が変わる。依頼者の意向で今回はまっさらのようなピカピカ仕上げ。ここから少しずつ硫化することで、羽に描かれた一本一本の表情やブレスレットそのものに燻が入る。自分が銀細工を好むのは、革同様に持ち主との間にある経年変化がうかがえるからだろう。彼の元へ返っていくブレスレット。何の保証もできないのに自分を頼りに、依頼をしてくださったことが本当に嬉しかった。

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表参道は日が暮れ、時計は19時になろうとしていた。いよいよ次は自分達の番。4人一組になり店内に入るとやはりそこでも順番は守らなくてはならない。それに加え、言葉遣い(製品への呼び名等)も正される。欲しいものは自分の足を使わなくともネットでポチー。ショップ店員とのやり取りが邪魔くさいからポチー。少しでも安価なものをポチー。夢にまで見た扉を叩き、一礼をして店へ入るとそんな現代のショッピングとは無縁の空間があった。原宿で最も老舗とも言われる所以を。長年愛用者が絶えない理由を。故・高橋吾郎氏が生涯をかけて生み出した作品を。自らも店を守り、ゲストと共有できる時間を楽しみたい。その為のヒントがあるのではないか。そんな想いでその場に立っていた。12時間もの間、雨に降られ、空腹に耐え、事ある毎に声を掛け合い励ましあった。まるで戦友のような仲間は大阪へ帰る為に駅まで見送ってくれた。「また会えるかな」と口にし、「きっとまた会えるはず」とそれぞれが口にした。名前を明かす事もなく約束でもない。だけど、本当にいつかまた会える気がしている。

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6月29日。今日は高橋吾郎さんの誕生日だった日。そんな日の“ひまつぶしにどうぞ”は、高橋吾郎という職人がもたらした人々の出会いについて。