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『シャンプーの講師になってもらえませんか?』そんな依頼をいただいたのは店を始める少し前の話。美容師の資格を取得したいという女性からのお声掛けだった。美容専門学校において、美容師免許を取得するための講義や技術的な実習は数ある中で、シャンプーの授業に割り振られる時間はあまり多くない。それもそのはず、国家試験内にシャンプーという項目がないから。そのため、試験の課題である特定のヘアースタイルは完成に至っても、シャンプーに自信が持てないという声は多い。実践的な経験を積みたいという彼女は美容専門学校へ通う傍ら、毎週のように店へと足を運びにやってくる。最初こそ覚束ない手先、関節も硬く、緊張が窺えた。時にはシャンプーの水圧に耐えられず、天井や5〜6m離れた向かいのソファーを濡らす事もあった。誰もが一度や二度通る道。ここでシャンプーに対する恐怖心が芽生えてしまいやすい。ところが彼女は違った。“明るく前向き”という表現そのもので、何が良くなかったかを自身で模索し、携帯電話の動画機能でシャンプー中の様子を撮影したいと。家でも自主トレーニングを重ねると話す意気込みからは“もっと上手になりたい”という思いが伝わってきた。半年ほどが経った頃には太鼓判を押せるほどの上達ぶり。彼女に合格を言い渡した。プライベートサロンを掲げ、一対一のスタイルを目指す中で技術的な指導やサロン内での講習は縁がなくなってしまうと覚悟をしていた。もし、彼女からの依頼がなければ、未だにその考えは変わらずにいたかもしれない。