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『もっと売上を伸ばしたいなら、声質と話し方を変えなさい』と言われたことがあった。美容師として一定の仕事量をこなす事ができるようになり、その次のステップを踏む為に当時の上司から教わった事。『声質を下げ、ゆっくりと話をしなさい』『気が急いてしまうと声質と足音に心境が表れる。自分の出す音をコントロールできてこそ、一人前ですよ』と。

それからというもの、歩き方とボイスコントロール・仕事のスタンスを変え、仕事の流れを逆算して考える習慣が身につくよう努めた。例えば、来店くださるゲストを見送る最終のイメージから始める。互いが『またね』と笑顔であれるイメージ。そのゲストの一番の笑顔が想像できれば最高だ。次に施術中にどのタイミングで話しを切り出すべきかを連想する。予め雑誌の記事を把握しておき、そのページを捲った切っ掛けでも良いだろうし、ゲストの一声をうかがうのも良い。そして、何より大切なのが“あえて間を設ける”ということ。対人関係は“間”が怖くなってしまうケースが大半なので、その“間”をどうやって設けるかが鍵となる。一通り仕事の流れを逆からイメージし終えるとゲストを迎えた時の事を思い浮かべる。この時“一番に話をしたい事”を頑張って飲み込んでおく。ついつい“話したい事や伝えたい事”は初めに持って行きがち。でも、それでは勿体ない。実際の見送りまで焦らずに仕舞っておく。一番話をしたい事は最後にとっておけば良いのだから。そういったスタンスに変え10年ほどが経つ。美容師を志した初めの10年とは真逆のスタンスだった。

残念な事だが未だに技術中(接客中)はゲストとの会話を意識させられ、“何を話して良いか悩む”という美容師の声を耳にする。そんな時は誰よりもスキルを磨き、技術に対し自信を持っている事を明確に伝えれば良い。それだけでゲストは仕上がりに期待が膨らむし、不安の払拭もできる。結果その時間を心地良いと感じてくださるはず。全てのゲストが会話を好むわけでないし、無理な会話は必要ない。その事を理解している美容師もたくさん増えてきているから周りの目を気にする必要もない。すでにサロン内の空気が“会話を心がけなさい”を醸し出す時代は終わっているのだから。

現在「一対一」のサロンスタイルに身を置き、ゲストと共に過ごす時間や向き合い方が変わった。自身にとって次の10年はどのようなスタンスで迎えたいのかを考えている。教わった事と学んだ事を元に、次はどう活かすかを。最近出会った言葉に写真家の土門拳の言葉「気力は眼に出る。生活は顔色に出る。年齢は肩に出る。教養は声に出る」がある。声質は教養だけでなく、その人物の内側を透かすもの。同様にスタンスや方向性をも表現するものかもしれない。